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神経が元に戻って動くようになってもカカシはその場で待っていた。うみのと約束したその地で。だが、やがて現れた人物はうみのではなかった。 「カカシよ、お前に伝えねばならんことがある。」 忍び装束を身に纏った三代目が目の前にいた。疲れた顔をしている。それはきっと里中のどの人も同じことだろう。 「三代目、すみません、里のために動かなくちゃならないのは承知してますがもう少しだけ時間をください。待ち人が来たらすぐにはせ参じますから。」 「カカシ、うみのは戻って来ぬ。」 「そんなことはありません。俺は約束したんです。」 カカシの揺るぎない言葉に三代目は会話の矛先を変えた。 「九尾の子がその命を狙われておったが、瀬戸際で食い止められた。赤子は無事じゃ。」 「そう、ですか、良かった。」 先生の子どもが殺されなくてよかったと心から思った。九尾の尾獣を封印されたのはもう仕方のないことだが、どうかこれからは健やかに育ってほしいと思う。 「殺そうとしていたのはお前の指導員であった暗部の者だ。お前はカラスと呼んでいたな。本名はうみのイルカと言う。」 それを聞いてカカシは立ち上がった。 「冗談はやめて下さい。うみのさんはそんなことしない。」 「聞いておったろう、うみのは未来から来たのだと。現代にもうみのイルカは存在しておる。13歳の少年ではあるが。」 そこから聞いた三代目の話しは到底信じられるものではなかった。 「うみのは14歳の姿に変化してカラスと融合した。激情で我を忘れていたカラスを止めるためには有効な手段であった。現に九尾の子の殺害は回避された。」 「うそだ。」 「カカシ、もう分かっておるじゃろう、融合したと言うことはすなわち、もう戻らぬと言うことじゃ。目を覚ましたイルカは術の影響か、意識が不明瞭で記憶を失った状態じゃ。そこに新たな偽の記憶を入れる。力もアカデミー並に後退した。イルカはアカデミーからやり直しをさせる。分かったな、カカシよ。」 だがカカシは頭を振って聞き入れようとはしない。 「うそだっ、信じない、信じないっ、約束したんだ、帰ってくるって、また一緒に暮らそうって言ったんだっ、一緒にご飯も食べようって、一緒にまた来年も再来年もっ、」 三代目はそっとカカシに手を伸ばし、抱きしめて背中を叩いてやった。 「最後にうみのは、笑っておったよ。穏やかに笑って、消えていった。」 ひくっ、とカカシの喉が鳴った。 「ふ、うっ、ううっ、ああああっ」 ひどい、笑ったなんてあんまりだ。笑ってあの男はいってしまった。もう手を伸ばしても届かない所に行ってしまった。好きだったのに、好きだと言ってくれたのに、こんなに愛しい気持ちだけを置いてけぼりにしていってしまった。 「三代目、お願いがあります。」 うつろな目を向けられて、三代目はそれをしっかりと受け止めて答えた。 「なんじゃ?」 「俺の誕生日を誰にも言わないでください。この世で俺の誕生日を知る者はもうこの世でうみのさんと三代目の2人だけになりましたから、俺と合わせて3人だけの秘密にしたいんです。」 「分かった。三代目の名を以て約束しよう。」 「感謝、します。」 カカシは腰にぶらさげていた暗部の面を付けた。もうそこには気弱な子どもの影など見えない。精鋭部隊の一員である気構えが十分に伝わってくる。 「この身、里のために尽くします。」 「頼む。」 三代目の言葉にカカシは身を翻した。 そしてそれから十年以上ずっと暗部として里の力になるように動いてきた。うみのイルカには一度として会わなかった。意地だったのかもしれない。三代目が何度かうみのイルカの話しをしそうになれば耳を塞ぎ任務を所望した。
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